王女殿下似乎要生气吧 关注:3,678贴子:14,021
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56 王女殿下は学園祭に参加するそうです(後編)
 喧騒の場に現れた三人の女性に、部屋の中は一瞬で静寂を取り戻した。
 その場にいた多くの貴族、サリーニャやクリスタも含め、皆信じられないように目を見開き、じっと彼女たちに目を向けている。
 唯一レティシエルは金髪の女性が誰かわからず、蚊帳の外だった。その両隣にいる少女たちは、以前シュレメール商会やケーキ屋で会ったことあるのだが。
「皆さま、どんなお話をなさっておいでで?」
 手に持ってた扇子で口元を隠しながら、淡い金髪の女性は不思議そうに首をかしげる。
「い、いえ、なんでもありません。ただ、20年治らなかった織物職人の腕が、今になって治るのはタイミングが良すぎという話を……」
 女性の登場に驚きを隠せないようで、クリスタはたじろぎながらもトツトツと自分の意見を主張する。
「どうしてそうお思いに?」
「だって、おかしいではありませんか。20年も腕が動かなかった人が、今になっていきなり復帰するなんて……。だからあちらにいる人がイドリアヌス紋の開発者だという証拠なんてどこにも……!」
「……」
 クリスタの言葉には答えず女性はぐるりと部屋を一周見渡し、レティシエルたちと一緒にいるバリーの姿を見つけた。
「あら、そこにいらっしゃるのはバリーさんではなくて?」
 親しげな口調でバリーに話しかける金髪の女性に、貴族たちの視線が一斉にバリーに向けられる。どうしてこの女性と知り合いなのだ、そんな彼らの声なき声が聞こえるようだった。
「え、ええ……お久しぶりでございます!ソフィーリア妃殿下……」
 数多な視線の中でドギマギしながらも、バリーが最上級の礼を取りながら挨拶すると、彼が呼んだ名前に貴族一同騒然となった。
「まさかと思ったが、やはりそうでしたか……!」
「しかし、ご療養中ではなかったのか?なぜこちらに……」
「いやいや、間違いなく第三妃ソフィーリア様だ……!」
「……え?」
 全く予想外の人物にレティシエルは思わず抜けた声を発してしまうが、小声だったため周囲の人が気づくことはなかった。
「こうしてお会いするのはいつぶりかしら?」
「左様ですね……私が王城を去ったのが17年前ですので、それくらいは経っているかと」
 レティシエルがキョトンとしている間にも、ソフィーリアは嬉しげに笑顔を輝かせてバリーに話しかける。誰もが固唾を呑んで、その一部始終を見守っていた。
「腕の傷はもう平気ですの?」
「は、はい……!お気遣い下さりありがとうございます。皆さんのおかげでなんとか手を動かせるようになりましたので、少しずつ慣らしながら復帰するつもりです」
 まるで久方ぶりに再会した友人のように、気さくにバリーに声をかけるソフィーリアに皆驚きをあらわにし、少しずつサリーニャたちに非難の目を向ける人が増えていった。
「懐かしいですわ。私が陛下に嫁ぐときの婚礼衣装も、あなたが仕立ててくださったものでしたわね」
「ええ。ドレスの袖口に施された白ユリの花の刺繍は、妃殿下たってのご要望でしたね」
「ふふ、よく覚えていらっしゃるのね。だって大好きなんですもの、ユリの花」
 レティシエルにはわからないことだが、イドリアヌス紋が流行するきっかけとなったのは18年前の第三妃ソフィーリアの結婚式だった。
 当時ソフィーリアのウエディングドレスに施された紋様の美しさに、参列した貴族たちが心を奪われ、そこからイドリアヌス紋は貴族社会で空前の大ブームを巻き起こしたのだ。
「やはり、バリー殿は本物のイドリアヌス紋の開発者でしたか……!」
「ソフィーリア様がご自分でおっしゃられたのだ。間違いない」
 ソフィーリアの言葉が決め手となり、部屋にいた全ての人たちが一斉にサリーニャとクリスタを後ろ指で指し始めた。
「あのお方たち、嘘をついておられたんだわ。公爵家のご令嬢なのに、目利きもできないのかしら?」
「やっぱり姉が王子の婚約者だったことをやっかんでおられるのではないかしら?」
 サリーニャたちを見る目に嘲りが宿り始め、嘘つきだとか、目立ちたがりだとか、様々な囁きが大きな波となってうねりを上げようとしている。
 その状態にクリスタは顔を赤くしながら歯ぎしりをし、一層鋭い目つきでレティシエルを睨みつける。サリーニャは無表情を崩しこそしなかったが扇子を持つ手は小刻みに震えていた。
「皆さまも、一旦落ち着きましょうね」
 そんな周囲をソフィーリアはたしなめ、他の貴族たちが落ち着き始めたのを見てサリーニャたちに歩み寄り、優しげな笑みを浮かべて語りかけた。
「あなたたちも、そんな怖いお顔をなさっていないで、肩の力を抜いてごらんなさい」
 第三妃にたしなめられればサリーニャたちとて何も言えず、黙って彼女の言葉に耳を傾ける他なかった。
「二人もご存じでしょう?今日はね、国の未来を担う有望な若者たちが日頃の努力と研究成果を発表するための大切な場なのだから、楽しみにしておられる方々もたくさんいらっしゃるのよ?」
「……」
「彼女たちもきっとこの日のために一生懸命準備をして来られたはずですよ。せっかくの姉妹なのだから、このような場では素直にお祝いして差し上げませんと」
 子供を諭すような優しい口調と言葉に、貴族たちは和やかな表情で頷く者が続出した。中にはそうだそうだと影でヤジを飛ばす者もいる。
「妃殿下様のお言葉、しかと肝に銘じました。他の展示も拝見させていただきたいので、私たちはこれで失礼させていただきます。ほら、行きますよ、クリスタ」
 クスクスと忍笑いと非難の声が聞こえ始めた中そう言い残し、サリーニャはクリスタの手を引いてそそくさと部屋を出ていく。
 クリスタは悔しげに唇を噛み締めていたが、最後の最後まで忌々しそうにレティシエルを睨みつけたままだった。
 二人が退場した後、室内はもとの賑やかで活気あふれる空間に戻った。引き続きイドリアヌス紋の展示を見始める貴族たちに混じって、ソフィーリアもバリーと楽しそうに話しながら室内を練り歩く。
「お久しぶりでございます、ドロッセル様」
 そんな中、ソフィーリアのそばに控えていた栗色の髪の少女がレティシエルの方に向かってきた。
 レティシエルの前まで来た少女はにこやかで明るい笑みを浮かべた。彼女の動きに合わせて、長いポニーテールが軽やかに揺れる。
「アーシャ様……ですよね?」
 シュレメール商会と町の喫茶店で二度会っているため、さすがにレティシエルもなんとなく顔と名前を覚えている。
 アーシャたち二人以外にもソフィーリアは二人侍女を連れていたが、アーシャたちはドレス姿ではなく、帯剣しているし明らかに侍女には見えなかった。
「それにしても、アーシャ様が第三妃様の護衛だったとは存じませんでした」
「護衛なんてたいそうなものではありません。私は側用人みたいなものですよ」
 レティシエルの言葉にアーシャは苦笑しながら手を横に振って否定する。
 側用人ならなぜ、身軽な格好に剣を腰に差しているのか、とも思ったが、王城では側用人でも人によっては剣を持ち歩くのかもしれない。レティシエルはそれ以上追求はしなかった。
「ソフィーリア様のそばにいなくて良いのですか?」
「ええ、このあと別の用事がありますし、ソフィーリア様には許可をいただいています。それに、ソフィーリア様にはメイが付いていますから」
 アーシャの視線を追うと、ソフィーリアの横にぴったりとくっついているハニーブロンドの少女……メイの姿が見えた。
 レティシエルと目が合ったメイは、キラキラと潤んだ瞳でこちらを見つめてぺこりと頭を下げる。まるで母親と娘のようにしか見えないが、メイも侍女のような格好ではない。アーシャが大丈夫というのならおそらく大丈夫なのだろう。
「それでは私は行きます。またお会いしましょう、ドロッセル様」
 レティシエルに小さく手を振り、パタパタと小走りでアーシャは部屋を出て行き、入れ替わるようにソフィーリアがメイを連れてレティシエルのところにやってきた。
「ドロッセル、あなたと会うのも随分と久々ですわね」
「……お久しゅうございます、ソフィーリア様」
「色々と苦労なさっていることは聞いているわ。変わらず勉学にも励まれているようで、本当に素晴らしいお心掛けですわ」
 レティシエル……正確にはドロッセルを見つめるソフィーリアの瞳は、まるで我が子を慈しむようにやさしげだった。
「子供の頃はよく体調を崩されておりましたけど、お体のほうはもう平気ですの?」
 “ドロッセル”は体調をよく崩していた。初めて知った情報にレティシエルは表情を崩さず考える。
 魔力が無い体質は生まれつきなのだろうか。レティシエルが知る限り、ドロッセルには体を壊して寝込むほどの疾患や慢性的な病などないはずだが……。
「ええ、今はなんともありません」
「そう、それはよかったですわ。また昔みたいに王宮へお顔を見せに来てちょうだいね?いつでも遊びにいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます……」
 旧知の仲のように親しげに話しかけてくるソフィーリアに、レティシエルは内心驚きつつも顔には出さず、適当に話を合わせる。
 きっとレティシエルが失くした16年分の記憶のどこかで、ドロッセルとソフィーリアは会ったことがあるのだろう。それも発言から考えると一度や二度ではない。
 失われた記憶の断片がまた一つ手に入った。それらがつながる日がいつになるかはわからないが、今は目の前のことに集中しよう。
(……あれ?エディの姿が見えないわね……)
 ふと周囲を見渡すと、毛織帽子に無精髭を生やした行商人の姿が見当たらなくなっていた。
 本当は先ほど彼が使っていた力について聞きたかったのだが。レティシエルには、エディが先ほどの力を使う時、魔法に存在する詠唱をしていないように見えたのだ。しかも何やら不思議な呪文を唱えていたから魔術とも違う気がする。例の錬金術とやらなのだろうか。
 そういえば人と待ち合わせをしていると言っていたから時間になったのかな、なんて考えてレティシエルはソフィーリアと会話を続ける。
 戻ってきたらどこであの力を習得したのかを聞いてみよう、そう思いながら。
***
 ルクレツィア学園別館の廊下を、リュックを背負ってエディは歩いて行く。
 教員の研究室が立ち並ぶこの建物は、学園祭の時にも人はほとんど立ち寄らず、建物の主たる教師たちも出払っているためいつも以上にガランとしていた。
「……見つけましたよ!待ってください!」
 廊下を進むエディの背中に少女の声がかかる。
 特に驚くこともなく振り向くエディの目に、宙を舞う栗色のポニーテールが写った。
「探しましたよ……!どうして約束の場所にいらっしゃらないのですか!」
「いや、だってあの場所、人が集まって来ちゃったじゃん。まさかそのままあそこで会う訳にもいかないだろう?」
「それは、そうなんですけど……」
 せめて一言言ってくださいよ、と呆れたようにため息を漏らすアーシャだが、すぐに切り替えてポケットから一枚の紙を取り出す。それは以前、バリーが刺青の紋章を書き記した紙だった。
「それで?例の刺青の件、調べはついた?」
「はい。おっしゃるように、刺青の紋章はイーリス帝国国境付近で活動していた傭兵団、黒鋼の騎士団のものだと判明しました」
 いつもの飄々とした様子はどこへやら、真面目な表情で尋ねるエディにアーシャは顔を引き締め、自身が持つ情報を話し始める。
 ラピス国との国境戦争時に、国内では数多くの傭兵団が組織されたが、黒鋼の騎士団もその一つである。戦争が終結して以来、傭兵業だけでは組織を維持できず、近隣の村に略奪に入るなど暴挙が目立ってきたため、三年ほど前に国軍によってアジトを掃討され、弱体化したはずの一味である。
「やはりそうか……。やつらの残党がまた集結しているのか?」
「ええ。国の取締まり強化や周辺村落の困窮で略奪は減っておりますが、その代わり用心棒稼業や密輸などに手を染め始めたようです。地方の貴族や豪商などの自警団、密輸の手配屋としても暗躍しているようで、最近では地下での活動を広げながら王都にも進出するようになっています」
「そうか……シュレメール商会のキャラバン襲撃事件は?」
「こちらと同じ紋章を見たという生存者の証言がありますので、黒鋼の騎士団の仕業で間違いないと思われます」
「なるほど、裏が取れているということか……ならこちらも動けるな」
「はい。北部の山間にアジトを構え始めたようですので、王都に潜伏している輩をしらみつぶしに叩くよりは、虚を突いて本拠を一気に叩いた方が良いかと」
 アーシャによってもたらされた一連の情報に、エディは腕を組んで唸りながら考え込む。
「アーシャ、終わって早々悪いけど、最近王都に出店してきたマイヤー商会を知っているだろ?引き続きこの店を洗ってみてくれないか?」
「傭兵団との関係をお疑いなのですね?商品の仕入れ先や取引先の線からまずあたってみます」
「さすがはアーちゃん!相変わらず話が早くて助かるよ。よろしく頼む」
 爽やかな笑顔を浮かべ、おどけながらアーシャの肩をパシッと叩くエディに、アーシャはやれやれとため息をついた。
「いつもありがとうな。他に何か伝えておきたいことはある?なんでも構わないよ」
「……ではお一つだけ」
 エディの顔を真っ直ぐ見つめ、アーシャは容赦も遠慮もなく言い切る。
「変装、似合っていませんよ、エーデルハルト殿下」
 アーシャの単刀直入なツッコミに、エディ……否、プラティナ王国の第三王子・エーデルハルトはショックを受けたように叫び声をあげた。
「えぇぇ!?いや、そんなことないって!ほら、ちょっとヒゲが馴染んできてるだろ?魔法でうまく隠してごまかせるようになったんだ」
「殿下、魔法の使い方を間違えている自覚はおありですか?というか、いつになったら王城に帰って来られるのですか!陛下も、いつ帰ってくるのかと首を長くしておられますよ!」
 各地を歩き回って、王都に戻って来た時に国王オズワルドに一度帰還の挨拶をしただけで、実はこの第三王子、王城にはほとんど帰っていないのだ。
「まだ調べたいことがある。だから王城に帰るのはもう少し先になるよ。父様と母様にもそう伝えてくれ。困っている民を放っておくことなんてできないからな」
「……ヴィルス村の方々ですか?」
「それだけじゃないさ。不埒な輩に引導を渡して住みやすい世にしていくことが我々王家の務めだからな。俺が今調べている案件に、友人たちが巻き込まれているのならなおさら……ね」
 なんの迷いもなく言うエーデルハルトにアーシャは、殿下らしいですね、と少し困ったように微笑みながら優しい眼差しを向ける。
「大切な方々なのですね。ご友人たちを助けるためにお母君までお呼びになられて」
「そうだね。でもまぁ、いいじゃないか。母様にとってもイドリアヌス紋は思い出深いものだろう?ずっと寝室のベッドで寝ていても体に悪いし、たまには息抜きしてもらいたいからさ」
 それに、と廊下の窓を開けながらエーデルハルトは言葉を続ける。穏やかな風が彼の金髪を撫でて遊ぶ。
「バリーさんたちはドロッセル様が助けようとしている人たちでもあるから」
「……殿下はドロッセル様にご興味が?」
「うん。面白い方だよね、ドロッセル様は。アーシャもそう思わない?」
「そうですね、噂に聞いていた人物とは大きくかけ離れていると思います。以前街で言いがかりをつけられて困っていたメイを助けてくださいましたし、ご級友たちとも楽しそうに街歩きを楽しまれておりました。正義感が強いというか、変わっているというか……不思議なご令嬢様です」
「えぇ?!メイが助けられた?はは、そりゃすごいな。そうだね、その不思議で変わってるところが面白いんだよ、昔から」
 意外そうに声をあげるが、面白いと語るエーデルハルトの声は楽しげで、その笑顔は好奇心と期待に満ちている。
「それに、知ってる?あの方、とんでもない威力の治癒術を使うんだ。俺は実際この目で見たけど、あれこそ奇跡の御技と呼べる代物だったよ」
 エーデルハルトの言葉にアーシャは不思議そうに首をひねる。
「その治癒術は、以前北を旅された時に見た、白の結社の修道士たちが使っていたものとは違うのですか?」
「ああ、違うものだね。あれは決してそういう力ではなかったよ……。それに錬金術の応用でもない」
 目を輝かせ、興奮したようにまくし立てるエーデルハルトは、そこで一旦言葉を切り、祈るような眼差しで窓の外に目をやる。
「あの方なら、もしかしたら母様の病気も治せるかもしれない……」
 母がいる学園の本館を見ながら、安堵したように穏やかな声でつぶやくエーデルハルトに、アーシャは何も言わずにただ目を閉じた。今のエーデルハルトにかけられる言葉を、アーシャは持ち合わせていないのだから。
「……あ。殿下、帽子がほつれていますよ」
「え?あ、ホントだ!」
 アーシャに指摘されてエーデルハルトは頭にかぶった小さな古びた毛織帽子を取る。確かに一部糸がほつれてしまっている。
「またいつもみたいに頼むよ」
「はぁ……わかりました。では数日お待ちくださいね」
「ありがとう、アーシャ」
 帽子をアーシャに渡して修繕を頼みながら、エーデルハルトはどこか切なげな瞳で儚く笑う。
 開け放たれた窓から涼しげな秋風が吹き込み、どこから来たのか白い花びらが小さな毛織帽子の上に静かに舞い落ちた。


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