魔法でも科学でもなく
気がつくと俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。アリシアと別れた後、どうやって家に帰ったのかも憶えていない。
日は暮れていて、部屋の中は真っ暗だった。
「アリシア……」
返事はなかった。
もう、彼女の声を聞くことはできない。
そのことがすごく寂しかった。
心が摩耗しきっていて、ひたすら空虚だった。
暗闇の中、身動きひとつせず天井をただ眺める。
どれだけの時間が経ったのかわからない。数分だったかもしれないし数時間経っていたかもしれない。
枕元のスマホが震えて画面が光り、俺は体に染み付いた反応でそれを手に取った。
俺は驚きで固まったままスマホを凝視する。
そこに表示されていたのは、今翡翠から届いた一文だけのメッセージ。
『アリシアを救う方法を知りたい?』
――心が動き出す。
※ ※ ※
俺は深夜の神社にやってきた。
メッセージを見た俺は直ぐに翡翠に電話した。直接会って話したいと言われて、今から行くと伝えて家を飛び出した。
呼び出されたの場所は翡翠たちの家ではなく神社の拝殿だった。
神社に正面から入った賽銭箱の奥にある装飾された畳間。そこに白と朱の巫女装束を着た翡翠が一人、神様に向き合って座っていた。
「翡翠!」
息を切らしながら名前を呼ぶと、彼女は静かに振り返る。
「……来たのね、アリス」
「アリシアを助ける方法があるって本当なの!?」
俺は翡翠に近づきながら問い質す。
疑問はいくつもあるが、何よりも一番重要なのはそこだった。
「ええ、本当よ」
淡々と翡翠は答える。
「お願いだ、その方法を教えてほしい!」
今ならまだ間に合うはずだった。
意識が消えてしまっても、アリシアの魂はまだ完全に消滅してはいない。魂が見える翡翠なら、より正確に状況を把握できるはずだった。
「この方法を教えれば、あなたの人生は確実に狂う。平穏な日常は失われる。それでも……?」
「構わない。アリシアに貰ったこの命以外ならどんな物だって差し出してやる。だから、教えて欲しい」
「それが人の理に反する行為でも? アリシアは多分
こんな方法で助けてもらうことは望まないと思う。私が今まで黙っていたのも、あの娘が知ったら確実に阻止すると思ったから……それでも?」
何を言われても気持ちは揺るがない。
俺は翡翠の目を真っ直ぐ見て大きく頷いた。
「……そう。やっぱりそうなのね」
翡翠は瞳を閉じて小さく溜息をついた。
「話すのに、ひとつ条件があるわ」
「条件?」
「私をあなたの恋人にして欲しい」
「そ、それは……」
想定外の要求で俺は返答に詰まる。
翡翠は大切な幼馴染の女の子だ。アリシアが言ったように将来そういう関係になる未来もあるのかもしれない。
だけど、今の俺はアリシアのことでいっぱいで、翡翠のことを考える心の余裕は無いというのが今の正直な気持ちだった。
「ごめん……翡翠の気持ちには応えられない」
翡翠の告白を断るのはこれで二度目となる。
俺の言葉を聞いても翡翠は表情を変えなかった。
「あなたがアリシアのことを好きなことは知っているわ。あなたは変わらなくていいから、私にあなたのことを支えさせてほしい。アリシアの次でいい、彼女が戻ってくるまでの間だけでもいいから」
「そんなのダメだよ……」
一番に想っていない相手を恋人にするなんて、翡翠を傷つけるだけだ。それに、アリシアが居ない間だけとか、そんな都合の良い関係は恋人とは到底言えないだろう。
「だったら、私はあなたにアリシアを助ける方法を教えられない」
「翡翠……」
「私がそれを教えれば、あなたはきっと大変な思いをすることになる。アリスが苦しむ姿をただ見ているだけなんて、私には耐えられないの。だから、お願い……」
俺の目を真っ直ぐに見て翡翠は俺に訴えてくる。
説得はできそうにない。
「……わかった」
この選択の結果、翡翠を傷つけてしまうことになるかもしれない。それでも俺は、アリシアを助けたかった。
「ありがとう……嬉しい。私、幾人と恋人になれたのね」
翡翠は胸の前で両手を重ねて微笑む。
その態度が嬉しそうなほど、俺は罪悪感で胸が苦しくなる。
「ごめんなさい……大好き、幾人」
気がつくと俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。アリシアと別れた後、どうやって家に帰ったのかも憶えていない。
日は暮れていて、部屋の中は真っ暗だった。
「アリシア……」
返事はなかった。
もう、彼女の声を聞くことはできない。
そのことがすごく寂しかった。
心が摩耗しきっていて、ひたすら空虚だった。
暗闇の中、身動きひとつせず天井をただ眺める。
どれだけの時間が経ったのかわからない。数分だったかもしれないし数時間経っていたかもしれない。
枕元のスマホが震えて画面が光り、俺は体に染み付いた反応でそれを手に取った。
俺は驚きで固まったままスマホを凝視する。
そこに表示されていたのは、今翡翠から届いた一文だけのメッセージ。
『アリシアを救う方法を知りたい?』
――心が動き出す。
※ ※ ※
俺は深夜の神社にやってきた。
メッセージを見た俺は直ぐに翡翠に電話した。直接会って話したいと言われて、今から行くと伝えて家を飛び出した。
呼び出されたの場所は翡翠たちの家ではなく神社の拝殿だった。
神社に正面から入った賽銭箱の奥にある装飾された畳間。そこに白と朱の巫女装束を着た翡翠が一人、神様に向き合って座っていた。
「翡翠!」
息を切らしながら名前を呼ぶと、彼女は静かに振り返る。
「……来たのね、アリス」
「アリシアを助ける方法があるって本当なの!?」
俺は翡翠に近づきながら問い質す。
疑問はいくつもあるが、何よりも一番重要なのはそこだった。
「ええ、本当よ」
淡々と翡翠は答える。
「お願いだ、その方法を教えてほしい!」
今ならまだ間に合うはずだった。
意識が消えてしまっても、アリシアの魂はまだ完全に消滅してはいない。魂が見える翡翠なら、より正確に状況を把握できるはずだった。
「この方法を教えれば、あなたの人生は確実に狂う。平穏な日常は失われる。それでも……?」
「構わない。アリシアに貰ったこの命以外ならどんな物だって差し出してやる。だから、教えて欲しい」
「それが人の理に反する行為でも? アリシアは多分
こんな方法で助けてもらうことは望まないと思う。私が今まで黙っていたのも、あの娘が知ったら確実に阻止すると思ったから……それでも?」
何を言われても気持ちは揺るがない。
俺は翡翠の目を真っ直ぐ見て大きく頷いた。
「……そう。やっぱりそうなのね」
翡翠は瞳を閉じて小さく溜息をついた。
「話すのに、ひとつ条件があるわ」
「条件?」
「私をあなたの恋人にして欲しい」
「そ、それは……」
想定外の要求で俺は返答に詰まる。
翡翠は大切な幼馴染の女の子だ。アリシアが言ったように将来そういう関係になる未来もあるのかもしれない。
だけど、今の俺はアリシアのことでいっぱいで、翡翠のことを考える心の余裕は無いというのが今の正直な気持ちだった。
「ごめん……翡翠の気持ちには応えられない」
翡翠の告白を断るのはこれで二度目となる。
俺の言葉を聞いても翡翠は表情を変えなかった。
「あなたがアリシアのことを好きなことは知っているわ。あなたは変わらなくていいから、私にあなたのことを支えさせてほしい。アリシアの次でいい、彼女が戻ってくるまでの間だけでもいいから」
「そんなのダメだよ……」
一番に想っていない相手を恋人にするなんて、翡翠を傷つけるだけだ。それに、アリシアが居ない間だけとか、そんな都合の良い関係は恋人とは到底言えないだろう。
「だったら、私はあなたにアリシアを助ける方法を教えられない」
「翡翠……」
「私がそれを教えれば、あなたはきっと大変な思いをすることになる。アリスが苦しむ姿をただ見ているだけなんて、私には耐えられないの。だから、お願い……」
俺の目を真っ直ぐに見て翡翠は俺に訴えてくる。
説得はできそうにない。
「……わかった」
この選択の結果、翡翠を傷つけてしまうことになるかもしれない。それでも俺は、アリシアを助けたかった。
「ありがとう……嬉しい。私、幾人と恋人になれたのね」
翡翠は胸の前で両手を重ねて微笑む。
その態度が嬉しそうなほど、俺は罪悪感で胸が苦しくなる。
「ごめんなさい……大好き、幾人」