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254-256生肉

只看楼主收藏回复

感谢另一位吧友的辛勤付出。
我别的不会,做一个生肉搬运工还是OK的。


IP属地:广东来自Android客户端1楼2021-10-23 23:21回复
    254
    ※ネーベル王国密偵、カラス視点です。
    或る密偵の憂鬱。
     今日のねぐらである、古びた宿の一室にて。
     ベッドに寝転がったオレは、階下にある酒場から響く調子の外れた歌に眉を顰めた。
    「煩いなぁ……」
    「今日は仕方ないですよ」
     同室者であるヒグマは『仕方ない』なんて言いつつも、酷く機嫌が良い。
     ベッド脇にある粗末なテーブルの上に、酒瓶とカップを並べる彼の表情は、見たこともないくらい柔らかだ。
     理由は聞くまでもない。下で浴びる程に酒を飲んでいる奴らと同じ。
     ネーベル王国が誇る英雄と女神の婚約は、国民を熱狂させた。
     ネーベル王国近衛騎士団長、レオンハルト・フォン・オルセイン。
     黒獅子将軍という二つ名を持ち、国内のみならず周辺諸国にも名を轟かせる勇将。
     由緒正しき伯爵家の嫡男であり有能、且つ人望もある。おまけに容姿端麗とくれば、女性が放っておく訳がない。それなのに未だ独身だった彼の婚約が、とうとう決定した。
     お相手はネーベル王国第一王女、ローゼマリー・フォン・ヴェルファルト。
     光り輝くような美貌と豊富な知識を持ちながらも、決して驕る事のない、心優しい姫君。
     自国の民だけでなく、隣国ヴィントでも圧倒的な人気を誇るかの人は、いつからか『女神』と呼ばれるようになった。
     国の宝である二人の婚約に、国中が沸き立った。
     王都の端に位置し、普段は寂れているこの辺りも例外ではなく、一日中お祭り騒ぎだ。宿に入って階段を上がる短い距離でさえ、何度酔っ払いに絡まれた事か。祝い酒だ、奢りだから飲めと騒ぐ奴らを引き剝がすのに、いらん体力を使った。
    「カラスも一杯、付き合いませんか?」
     カップの一つを向けられ、暫し考えてから身を起こす。
     受け取ると、ヒグマは栓を抜き、葡萄酒をなみなみと注ぐ。暗い赤色の液体には濁りがなく、ランタンの光を受けて、幻想的に揺れた。
     乾杯するでもなく呷ると、強い渋みに噎せかけた。どっしりと濃い味を堪能する暇もなく、通り過ぎた酒精が喉を焼く。一拍置いて、燻したタルの特徴的な香りが鼻に抜けた。
     酒場の奴らが水の如く消費している安酒とは違って、不快な後味はない。おそらく、それなりの値段はするだろうが、随分と癖が強い。
     じとりと恨みがましい目を向けるが、いつになく浮かれた様子のヒグマは気付く様子もなかった。
     聞こえてくる賑やかな笑い声を肴に、ちびちびと葡萄酒を飲む彼の口元は緩んでいる。まるで子供の結婚を喜ぶ親父のような顔だ。
     からかってやろうかとも思ったが、止めた。
     たぶん照れもなく肯定されるだろうし、実際に近い感情なのだろう。旧友と恩人の婚約を心から祝っている男から視線を外し、カップを傾けた。
     舐めるように飲んだ葡萄酒の苦味が、心の奥底にあった苦い感情も引き摺りだす。
     ここ暫く、姫さんには会えていない。
     影から姫さんの様子を見守る事はあっても、逆はない。宝石みたいな蒼い目にオレが映ったのは、あの夜が最後。
     魔王に操られ、絶望していた姫さんを、オレが助けられなかった日だ。
     思い出すだけで、じり、と内臓が焼け付くような感覚に襲われる。
     身を焦がす焦燥感と、己に対する失望と怒りがまざまざと蘇った。
     あの日、姫さんは怯えていたのに。気丈な姫さんが震えて助けを求めていたのに、目の前にいたオレは、何もしてやれなかった。
     尋常ではない眠気と倦怠感など、理由にならない。魔力がどうのとかも関係ない。レオンハルト・フォン・オルセインは、それらを物ともせずに姫さんを助け出してみせたのだから。
     そんな男が姫さんの婚約者。
     お似合い過ぎて、何も言えない。
     捕らわれの姫君と救い出した騎士の結婚なんて、出来過ぎた御伽噺のようだと、おかしくもないのに笑った。
    「カラス」
     呼ばれて顔を上げると、ヒグマが葡萄酒の瓶を向けている。
     いつの間にか空になっていた手元のカップを、少し考えてから差し出す。
     葡萄酒はあまり好きじゃないが、今日はもう少し飲んでもいい気がした。
     カップの縁と瓶の口がぶつかるのと同時に、前触れなく扉が開く。
    「邪魔するよー」
     気配を消す事もせず、足音荒く入ってきた男に、オレとヒグマは顔を顰める。顔を見合わせたオレ達は、『嫌な奴が来た』と言葉なく語った。
    「邪魔だから帰れ」
    「傷付くなぁ。仕事で疲れた同僚に労いの言葉はないの?」
     傷付いたフリすらせず、飄々と笑う男に苛立ちが増した。
     


    IP属地:广东来自Android客户端2楼2021-10-23 23:22
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       優しげな顔立ちと穏やかな物腰で、無害に見える優男。その実体は、取り扱い次第では、毒を通り越して劇薬となり得る暗殺者、ラーテ。
       手綱を正しく握れるのは今のところ、ただ一人。
      「オレにも頂戴」
      「断る」
       オレのベッドに許可なく腰を下ろしたラーテは、図々しくもヒグマの葡萄酒に手を伸ばし、素気無く断られた。
      「ケチ」
       さして気分を害した風もなく、口を尖らす。
       自分の荷物を漁り、どこかで調達してきたらしい酒瓶を引き抜いた。
      「終わったのか?」
       栓を歯で抜き、そのまま瓶を呷っているラーテに問うと、視線だけこちらを向く。
       ラーテは密命を受けて、隣国ラプターへと行っていた。
       最大の目的である国王の挿げ替えは完了したが、まだラプター国内は、落ち着いたとは言い難い状態だろう。
      「オレはもう十分働いたよ。後は別の人に頼んでねって言ってきた」
       さらりと告げられた言葉に、ぎょっと目を剥く。
       言ってきたって……まさか国王陛下にか。
       気安い口調とは対極にいる存在を思い浮かべ、呆れるオレの向かいで、ヒグマがなんとも言えない顔をしている。
       貴族出身で騎士団に所属していた身からすると、ラーテの態度はあり得ないものなんだろう。今更だが。ラーテは基本、誰にも媚びない。
      「そもそもオレは、お嬢さんのものだしね」
       機嫌良さそうに眦を下げたラーテは、酒瓶の口に唇を落とした。さっきまでの乱雑さはなく、恭しいまでの仕草が何かを連想させる。
       それに反応したのは、オレが先だったか。それともヒグマが早かったのか。
       感じた苛立ちのままに睨み付けると、ラーテは「ん?」とわざとらしく首を傾げる。
      「本気であの方に雇ってもらう気か」
       低い声で問うたのは、オレではなくヒグマだった。
       肌が粟立つような殺気と気迫。けれどラーテは欠片だって怯む様子はない。
      「もらう気もなにも、既に決定事項だけど。お嬢さんも了承済みだし」
       今更だと笑うラーテは腹立たしいが、残念ながら正論だった。
       既に契約は交わされており、オレ達が口を出す領域ではない。


      IP属地:广东来自Android客户端3楼2021-10-23 23:23
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         それにラーテは、嫌になる程優秀な男だ。
         単純な力比べや足の速さなど、限定すれば勝る部分はあっても、なんでもありの殺し合いになったら、おそらくオレもヒグマも、この男には敵わない。
         必ず姫さんの役に立つし、なにより、ラーテは姫さんだけは裏切らない。護衛兼密偵として、これ以上ない理想的な人材だ。
         それでも納得出来ないのは、完全な私怨だった。
         ヒグマは、大切な友人夫婦の傍に危険人物を置いておきたくない。
         そしてオレは……。
        「二人共さ、正直に言ったら?」
         大袈裟に肩を竦めて見せたラーテは、溜息を吐き出す。
         そして、にやりと口角を吊り上げた。
        「羨ましい、って」
         ラーテの言葉は当たっている。図星だ。
         国王陛下の下で働く事が嫌なのではない。
         オレが唯一、尊敬している方だ。不満なんてある筈もない。
         身の程知らずにも、姫さんを手に入れたいと思ってもいない。
         そこまで馬鹿じゃない。
         ただ、姫さんが離れていくのが嫌だった。
         彼女を傍で見守っていた数年が、あまりに楽しく、鮮烈だったから。
         ガキみたいにあり得ない夢を見た。
         可能なら一生、『姫さん』でいてほしかったんだ。
        「あれ、図星だった?」
         黙り込んだオレ達を眺め、ラーテは目を丸くした。なんてわざとらしい。
         空気が読めないのではなく、敢えて読まずに煽ってくる男を睥睨する。同じく射殺しそうな目をしたヒグマの手の中で、カップがピシリと乾いた悲鳴を上げた。
        「殺す」
         異口同音。寸分のズレなく放ったオレ達の言葉を聞いて、ラーテは楽しそうに喉を鳴らす。
        「やってみろ」
         獰猛に笑う男の息の根を、どうやったら止められるのか。
         誰か、教えてくれ。


        IP属地:广东来自Android客户端4楼2021-10-23 23:23
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          255
          転生王女の決心。
           両親である国王夫妻立ち合いの下、レオンハルト様と私の婚約式が執り行われた。
           国民にも正式に発表され、沢山の人達にお祝いしてもらって幸せの真っ只中……となるまでに、実は一悶着あった。
           あれは花音ちゃんが地球へと帰って、半月ほど過ぎた頃。
           父様にレオンハルト様と二人揃って、呼び出しを受けた。
           婚約に関するあれこれを決めるのだろうと浮かれ切った私は、レオンハルト様が心配そうに顔を曇らせていた事に、その時は気付けなかった。
           後から思うと、レオンハルト様は先に話を聞いていたのだろう。そうでなければ、各方面に根回し済みだった事への説明がつかない。
           呑気な私が異変に気付いたのは、父様の部屋に入ってから。
           待っていたのは父様だけではなかった。何故か同席している兄様とヨハンの姿を見て、『おや?』と内心で首を傾げた。
           家族なのだからおかしい事ではない、と言われればそれまで。でも、それなら兄様とヨハンよりも、母様がいるべきだろう。
           大切な兄と可愛い弟の姿を見て感じたのは、いつものような安心感ではない。ざわりと胸が騒ぐような、落ち着かない感覚。
           有り体に言うならば、嫌な予感がした。
           思わず立ち止まった私の背を、レオンハルト様が促すようにやんわりと押す。
           斜め上にある端整な顔を見上げると、弱ったように眉を下げる。それでも背を押す手は外されない。もしや孤立無援の状態なのでは、と気付いた時には既に逃げるという選択肢は潰されていた。
          「座れ」
           父様は視線でソファを示す。
           往生際悪く棒立ちしていた私だったが、渋々とその言葉に従った。拳一つ分空けた隣にレオンハルト様が腰を下ろす。
           居心地の悪さを感じつつも父様を見ると、普段通りの無表情が僅かに崩れる。父様は、片眉を軽く上げ、呆れのようなものを滲ませた。
          「そう警戒するな」
          「無理です」
           反射的に返した。
           だって、何この圧迫面接みたいな空気。
           兄様とヨハンは真剣な様子だし、レオンハルト様の表情も固い。
           ここからどう転んでも、『家族に婚約を祝われ、旦那様と喜びを分かち合う』なんて微笑ましい未来が待ち受けているとは思えない。いくら私が頭お花畑だって、それくらいは分かる。
          「姉様。怖い事なんてないから、大丈夫ですよ」
           にっこりとヨハンが、お手本のような笑みを浮かべる。
           怖い。
           腹に一物ありそうな弟の笑顔に、私の警戒心はぐっと上がった。
           小動物みたいにプルプルと震える私を見て、兄様は困ったように形の良い眉を下げる。
          「ローゼ。落ち着いて聞いてほしい」
           良くない話がある時の切り出し方に、私は既に泣きそうだ。
           勇気付けるように、そっと握ってくれたレオンハルト様の手を握り返す。
          「い、今更、婚約は駄目なんてお話は絶対に聞きませんからっ!」
           涙目できっと睨むと兄様は目を丸くして、父様は大きな溜息を吐いた。ヨハンは目を眇め、私とレオンハルト様が繋いだ手の辺りを睨んでいる。
          「誰もそんな話をするつもりはない。落ち着けと言っているだろう」
           父様の呆れ混じりの声の陰で、ヨハンが「反対していいならしますけど」とぼそりと呟く。聞こえているからねと突っ込みたかったけれど、藪蛇になりそうなので止めた。
          「寧ろ逆だ。お前達の婚約を整えるに当たり、障害となり得る問題を解決する為の話し合いをする」
          「え」
           驚きに数度瞬く。それから窺うようにレオンハルト様を見ると、彼は口元だけで微笑んで頷いた。
           それを見て、ようやく落ち着いた私は、居住まいを正す。
           レオンハルト様と結婚できるなら、障害の一つや二つ超えてみせる。
           転生してから今まで、ずっとそうして来た。
          「障害とは、どのようなものでしょう」
           顔付きの変わった私を見て、父様はつまらなそうにフンと鼻を鳴らす。
          「その男の為なら、何でもやるという顔だな」
          「はい」
           実際そうですし、と照れもなく肯定する。すると繋いでいた手がビクリと跳ねた。見るとレオンハルト様は、赤くなったのを隠すように顔を背ける。
           釣られて赤くなるけれど、ヨハンの咳払いで我に返った。
           父様はそんな私達を眺めた後、「よし」と重々しく頷く。
          「ならば女公爵となれ」
          「…………」
           長い沈黙が落ちた。
           無言で父様の顔を見つめながら、告げられた言葉を咀嚼する。
           


          IP属地:广东来自Android客户端5楼2021-10-23 23:26
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             公爵とは、五つあるうちの爵位の第一位。王家に連なる血筋……例えば兄様が王位を継承し、王弟となったヨハンが臣籍降下して賜る地位だ。
             女公爵というのだから、ここにいる唯一の女性として私が対象となるだろう。実際、王家の一員なのだから、その点のみ資格がある。
             なるほど。私が公爵となると。
             え、なんで??
            「……は?」
             呆気にとられた声が出た。
             ぽかんと口を半開きにしたまま固まる私を、兄様とヨハン、それからレオンハルト様が気遣う目で見ている。
             背中にじんわりと汗が滲む。
             憐れむような皆の眼差しが、余計に逃れようのない現実を突きつけた。
            「な、何故そうなるのです? 私がオルセイン伯爵家に降嫁するのでは、いけないのですか?」
             焦りと不安に吃りながら問う私を、父様は無言でじっと見つめる。
             見かねたように口を挟んだのは、ヨハンだった。
            「そこが一つ目の問題です。王女の降嫁先として、伯爵家では釣り合いが取れません」
             歴史的にも世界的にも、王女が伯爵家に降嫁した例はいくつもある。それにオルセイン家は由緒正しい家柄で、王家の信頼も厚い。優秀な騎士を多く輩出する名家だ。
             そう必死に訴えるが、そんな事はここにいる誰もが知っている。つまり説得材料にはなり得なかった。
            「お前の降嫁がなくとも、レオンハルトの功績でオルセイン家は近々、侯爵への陞爵が決まっている。だが、それでもまだ足りない」
            「足りない?」
             父様の言葉を聞いて、私は憮然とした。
             ならばどうしろと、と言いかけて、すぐに思い当たる。そこから『女公爵となれ』という発言に繋がるのかと思うと、眩暈がした。
            「侯爵程度が娶るには、影響力が大き過ぎる」
             一度言葉を区切る。薄青の瞳が、私を捉えた。
            「お前は功績を挙げ過ぎた」
            「!?」
             私からすると暴言とも取れる言葉に目を見開く。
             今なんて言った!? この親父、なんて言った!?
             レオンハルト様と結婚したければ功績を挙げろって言ったの、アンタじゃないか!!
            「父様が功績を挙げろと仰ったんでしょう!?」
            「やり過ぎだと言っている。加減を知れ」
             馬鹿め、と付け加えそうな顔で告げる父様に、私は拳を握り締めた。
             この、くそ親父ぃいいいい!!
             ギリギリと歯を食いしばって怒り狂う私の背を、レオンハルト様が擦る。ぽんぽんと宥めるように柔らかく叩かれて、我に返った。
            「姫君。まず、一通りお話を伺いましょう?」
            「は、はい」
             いかん、いかん。結婚する前にこんな鬼婆みたいな顔を見せたら、婚約破棄されちゃう。
             深呼吸してから表情を取り繕うと、身内からの視線が痛い。兄様の寂しそうな目はともかくとして、他二つは黙殺したい。
            「陛下の言い方に問題はあるが、実際にローゼの功績は大きい」
            「そうですね。ヴィント王国では流行り病の収束に貢献した姉様を、女神と崇める人も多いです。自国の貴族よりもよほど知名度が高いですし、下手をしたら王家の影響力に並ぶかもしれません」
             兄様の言葉をヨハンが引き継ぐ。
            「それに、『海のしずく』でしたっけ? あの画期的な商品の開発者として、船乗りや商人からの人気も高いです」
            「えっ。な、なんで……」
             なんでそれバレてるの。
             最後まで言えなかった疑問をきっちり拾ったらしい兄様は、困ったように微笑んだ。
            「噂話として始まって、既に周知の事実となっている」
             マジですか……。
             確かに、商品名が『ローゼマリー』の別名である『海のしずく』な時点で、隠す気あるのかってレベルだったけど……。


            IP属地:广东来自Android客户端6楼2021-10-23 23:27
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              「何よりお前はクーア族の主であり、医療施設計画の要だ。他家に嫁に出せば、いらぬ争いが起こる」
              「…………」
               ぐうの音も出なかった。
               無言の抗議として、じっとりした目を父様に向ける。
               確かに今後、建設される病院の事を考えると、私が一貴族のお嫁さんになるのはまずい。
               学び舎を併設した医療施設の案が実現されれば、確実に医療レベルは押し上げられ、医者を志す若者が世界中から集う。
               それに伴い、医療器具などの商品開発や物流も盛んになり、病院建設地は世界有数の大都市になるはず。
               建設予定地は王家の所領だろうし、そのまま病院の管轄も国になるだろうけど、クーア族の主人である私は無関係でいられない。
               良いものも悪いものも、私の懐に流れ込む。
               そうなった時、オルセイン家は絶大な権力を手に入れる。
               他家とのバランスが狂い、大きな軋轢を生むだろう。
               それを見越した諸侯らから陳情もあり、特例的に『女公爵』が認められたようだ。
               権力の一極集中を見過ごすよりはと、高位貴族の支持もある、と。
               なるほど、うん。つまり、用意は整っているのね。
               ついていけていないのは、私の頭と心だけってわけだ。
               緊張に冷えた私の指先を、レオンハルト様は両手で温めるように包み込んだ。
               恐る恐る視線を合わせると、柔らかな眼差しが言葉を促す。
              「……レオンハルト様」
              「はい」
              「オルセイン家の後継は、その……」
              「幸い我が家にはあと二人、男子がおります。特に下の弟は、数年前から父に付いて仕事を教わっていますので、跡取りには困っていません」
              「そう、ですか」
               でも、と言いかけて言葉に詰まる。
               私が女公爵となるのなら、レオンハルト様は配偶者となる。当主ではなく、お婿さん。
               彼が権力や地位に拘る人ではないと分かっていても、私のせいで、実力や功績に見合うだけのものを得られないのかと思うと、申し訳なくなった。
              「ローゼマリー様」
               俯きかけていた私は、呼ばれて、おずおずと顔を上げる。
              「オレが欲しいのは、地位でも名誉でもなく貴方です」
              「は……」
              「貴方の伴侶となれるならば、どんな苦労も厭いません。何があっても、一生お傍で貴方を支え続けると誓います」
               私に出来るのかな、と、大きな不安があった。
               政治も領地経営も、たぶん甘ちゃんな私に向いていない。清濁併せ呑む器がなければ、人の上に立つのは難しい。
               それでも、最愛の人がここまで言ってくれているのに、逃げ出すという選択肢なんてあるはずもなかった。
               それに、私は一人じゃない。レオンハルト様がいてくれるし、他にも支えてくれる人が沢山いる。苦手な事は頼って、一緒に悩んでもらえばいい。
              「……大変な道でしょうけれど、共に歩んでいただけますか?」
               下手くそな笑顔を向けると、レオンハルト様は目を瞠る。
              「はい。喜んで」
               嬉しそうに眦を緩める彼を見た私は改めて、この人を好きになって良かったと心から思った。


              IP属地:广东来自Android客户端7楼2021-10-23 23:28
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                256
                ※クーア族長の息子、ヴォルフ・クーア・リュッカー視点となります。
                或る薬師の哀愁。
                 薬研やげんで碾ひいた生薬を、紙に移す。
                 すると隣に控えていたロルフが手を伸ばす。指先で紙の端をトントンと叩いて、粉を中央に寄せてから、手際よく包む。
                 普段のクソガキっぷりからは考えられない丁寧な仕事に感心しながらも、薬研車を置く。凝り固まり、鈍い痛みを訴える肩を回して、手をぶらぶらと振った。
                「あー……、肩凝った」
                 野太い声で唸ると、薬包を別の机に並べていたロルフは呆れたような視線を寄越した。
                「おっさんか」
                「おっさんよ」
                 今更何をと、鼻で嗤った。
                 もう三十路目前だというのに、何を取り繕う事がある。十代の若者相手ならば尚更だ。
                 オレの言葉を聞いたロルフは軽く目を瞠ってから、顔を顰める。不愉快というよりは不機嫌。拗ねた子供みたいな顔で、ロルフは呟いた。
                「……ヴォルフ様がおっさんなら、アイツの旦那もおっさんって事になるな」
                 なるほどと心の中で頷く。
                 つい先日、正式に婚約が決まった我が主のお相手は、確かにオレと同年代の男だった。とはいえ、似ているのは年齢だけ。
                 地位も家柄も、比べるのがおこがましい程にかけ離れている。その上であの容姿。張り合う気も起らない。
                 あちらは『おっさん』なんて言葉からかけ離れた色男だ。
                「マリーに聞かれたら怒られるわよ」
                 マリーが近衛騎士団長と一緒にいる場面を何度か見かけたが、かなり惚れ込んでいる様子だった。聞くところによると、かなり昔から一途に追いかけていたらしい。
                 自分の事には無頓着で、『ブス』なんて暴言を吐かれても許容しているマリーだが、たぶん惚れた男を貶されたらそうはいかないだろう。
                「本気で嫌われたくないなら、止めておきなさい」
                「…………」
                 ロルフはむっつりと黙り込んでいるが、たぶん分かってはいるはず。
                 クソガキな言動が多いロルフだが、頭の回転は速いし、空気が読めない訳ではない。マリー以外には失礼な口を利かないし、『ブス』と憎まれ口を叩くのも、どこまで許されるかを計っている部分がある。同年代の子供同士ではなく、王女と部下いう立場に変化しても本質は変わらないのか確かめて、安堵している。当人は気付いているのかは定かでないが。
                「同じ年代なら……」
                「ん?」
                「ヴォルフ様にすりゃ良かったのに」
                「…………」
                 予想外の言葉に、今度はオレが無言になった。
                 数度瞬いてから、ロルフをまじまじと見つめる。居心地悪そうに視線を逸らすが、発言を撤回するつもりはないらしい。
                「年齢以外、似ても似つかないじゃない」
                「何が」
                「何もかもがよ。大国の近衛騎士団長で、名門伯爵家の嫡男。しかもあの綺麗な顔、見た?」
                「ヴォルフ様だって、クーア族の長の息子だ。田舎の一部族とはいえ、医学の分野では他の追随を許さない。これから先に価値が跳ね上がる事を考えれば、婿として縛り付けておくのもそう悪い案じゃない。確かに顔は強面だけど、整ってる。城の侍女が見惚れている場面を結構見かけるし」
                 どうやらロルフは意外にも、オレを高く買ってくれているようだ。
                「まさかアンタがそんな風に思ってくれているとはね。……確かにクーア族の価値は高いし、私自身もそれなりに良い男だって自負はあるわ」
                 ロルフの頭に手を置いて、宥めるようにポンポンと叩く。
                「でも、一番大事なものが足りないわ。分かるでしょう?」
                 マリーがもし国の為に望まない結婚をするつもりなら、オレも考えた。完全な政略結婚で、相手がろくでもない男ならば、自分の持てる全てを使ってでも邪魔しただろう。
                 でも違う。
                 マリーは……あの子は、自分の力で望む相手との結婚を勝ち取った。
                 割り込む隙間のない相思相愛な二人が、幸せな結婚をするというのに、いったいオレに何が出来る?
                 それに嫁入りすると思っていたマリーが、公爵家当主になるというだけで、オレには十分だった。
                 王女であるマリーならば問題なくとも、伯爵夫人ではクーア族の主人という立場が重荷となる恐れがある。別の主人を持つという考えは端から無かったが、迷惑をかけるのは本意でなかった。
                「私はマリーが主人になってくれるだけで、十分満足なのよ」
                「……」
                 無言の抗議を受けて、オレは苦笑した。
                「アンタもその排他的な性格、そろそろどうにかなさい。リリーを見習ってみたらどう?」
                 


                IP属地:广东来自Android客户端8楼2021-10-23 23:37
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                   気を許した人間だけで周りを固めたい気持ちは、分からないでもない。大切な人が結婚という形で離れていくのが嫌だというのも、理解できる。
                   今までは……一族の人間だけで完結していた世界ならば、それでいい。でもオレ達は、外と関わると決めた。なら変化は受け入れなくては。
                   村にいた頃は、ロルフよりリリーの方が人見知りで頑固に思えていたけれど違った。
                   リリーはちゃんと、一族以外の人間とも積極的に交流している。人見知りの名残はあって、初対面の人間には緊張しているようだが、それでも頑張っているようだ。主人であるマリーの役に立つ為に努力している姿は、とても健気だと思う。
                   それに、もう一つ。リリーには微笑ましい変化があった。
                   窓の外に視線を移すと、薬草畑が丁度見える。
                   薬草の世話をするリリーの傍らには、目立つ白のローブを纏う青年がいた。
                   ミハイル・フォン・ディーボルト。
                   治癒と植物の成長促進という稀有な力を持つ、地属性の魔導師。彼は薬師であるオレ達とはとても相性が良く、交流が深い。
                   性格は穏やかで人当りが良く、控え目。
                   一族以外の男とは距離を取るリリーが、彼とは親しくしているようだ。
                   性格が合うのか、話が合うのか。よく楽しそうにしている場面を目撃する。
                   二人の話題は、マリーである事が多い。
                   リリーは知っていたが、ミハイルもマリーを崇拝している節がある。こないだも二人は、マリーの婚約の話で大層盛り上がっていた。
                   意識し合っている異性というよりも、同好の士のように色気のない関係のリリーとミハイルだが、もし将来的に夫婦となってくれたら、とても喜ばしい事だ。
                   そう考えながらリリー達を見守っていると、同じ方向を見ているロルフに気付く。彼の表情に悪感情はなかったが、つい興味本位で口を開いた。
                  「……リリーが取られちゃったみたいで寂しい?」
                   噛み付かれる覚悟をしていたけれど、ロルフは呆れたように溜息を吐く。
                  「ガキじゃねえんだから」
                   強がりではないと、二人を見る温かな眼差しが証明していた。
                   リリーとロルフは幼馴染という関係以上に近い。近過ぎて、お互いを異性として見るのは無理だろう。
                   ロルフの顔は、姉の幸せを喜ぶ弟のソレだった。
                  「オレが排他的なのは確かだよ。でも幸せそうな人間の邪魔をする程、性根が腐ってはいないつもり」
                  「アンタ……じゃあ、さっきのは何なのよ」
                  「それは身内贔屓ってやつ」
                   じとりと軽く睨むと、ロルフは肩を竦めた。
                   飄々とした様子で、口角を少し上げる。
                   意味が分からないと首を傾げるオレを真っ直ぐに見るロルフは、大人びた顔で苦笑した。
                  「アイツが幸せなのが一番だって分かってる。でも、ついでにヴォルフ様も幸せになれるなら更に良いだろ?」
                   虚を衝かれ、言葉を失くす。
                   まさか気付かれているとは思わなかった。
                   敢えて自分でも、見ない振りをしていたのに。
                   一回り以上年下の女の子に心酔して、更に気持ちを育てるのは流石にマズいと蓋をした。育つ前に水を断ち、枯れるのを待っていた。
                   ただ残念ながらしぶとくて、たまにふと芽吹きそうになるのを必死に潰している。
                   これが恋かと問われたら、分からないとしか答えられない。
                   分からないままにしておきたい。
                   婚約という止めを刺されたので、たぶん名前のないまま、ゆっくり息絶えるはずだ。
                  「……ありがとね」
                   ロルフの頭を、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。
                   嫌そうな顔をしながらも、手を振り払わない辺り、優しい子だと思う。
                  「私は幸せ者だわ」
                   少しだけ痛む胸には気付かないふりで笑った。


                  IP属地:广东来自Android客户端11楼2021-10-23 23:41
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                    IP属地:福建来自Android客户端13楼2021-10-30 19:47
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                      用翻译器来看了,这还真是……大型失恋现场啊


                      IP属地:江苏14楼2021-11-20 17:36
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                        感恩的心


                        IP属地:吉林15楼2022-05-15 23:26
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