差し向かう心は清き水镜
第一章
露のふる先にのほるや稲の花
おもしろき夜着の列や今朝の雪
菜の花のすたれに登る朝日かな
しれば迷いしなければ迷わぬ恋の道
しれば迷いしらねば迷ふ法の道
裏表なきは君子の扇かな
水音に添えてききけり川千鸟
手のひらを砚にやせん春の山
白牡丹月夜月夜に染めてほし
愿うことあるかも知らす火取虫
第二章
朝茶呑てそちこちすれば霞けり
春の夜はむつかしからぬ噺かな
三日月の水の底照る春の雨
水の北山の南や春の月
横に行き足迹はなし朝の雪
人の世のものとは见へぬ桜の花
我年も花に咲れて尚古し
年々に折られて梅のすかた哉
胧ともいはて春立つ年の内
春の草五色までは覚えけり
第三章
来た人にもらひあくひや春の雨
咲ふりに寒けは见へず梅の花
朝雪の盛りを知らす伝马町
冈に居て呑むのも今日の花见哉
梅の花一轮咲てもうめはうめ
山门を见こして见ゆる春の月
大切な雪は解けけり松の庭
二三轮はつ花たけはとりはやす
玉川に鮎つり来るやひかんかな
春雨や客を返して客に行
第四章
暖かなかき根のそはやいかとほり
今日もきょうたこのうなりや夕けせん
うくひすやはたきの音もつひやめる
武蔵野やつよふ出て来る花见酒
梅の花咲るしたけにさいてちる
(井伊公)ふりなからきゆる雪あり上巳こそ
年礼に出て行空やとんひたこ
春ははるきのふの雪も今日は解
公用に出て行みちや春の月
あはら屋に寝て居てさむし春の月