原文
「わりぃ、遅くなっちまった！」
言ってボルトは、宿にしているホテルの裏庭へとやって来る。
そこにはすでに、サラダと長十郎が待っていた。
「全部、済ませましたか？」
長十郎に問われ、ボルトは歯を見せて笑う。
「ああ、ちゃんとデンキに上手く言っといてくれって頼んできた」
「ちょっとまって、シカダイとかミツキは？」
笑うボルトに、サラダはぴくりと反応する。
ボルトとサラダは移動中に話し合い、不在中の色々をなんとかしてくれる人間に相談をしようということで取り決めをしておいたのである。
ボルトはできればシカダイやミツキに、サラダはチョウチョウやスミレに話をして、シノやアンコの誤魔化しを依頼する手はずであったわけだ。
しかしサラダと違ってボルトはというと、捜し回りはしたのだが会うことができたのはホテルのロビーにいたデンキただひとりという状態だったらしい。
「あんたねえ！」
「仕方ねぇだろ、いなかったんだから」
「それぐらいでいいでしょう。いざとなったらこちらから便宜を図ることも不可能ではありません。……それに、これ以上あちらを泳がせるのも限界です」
長十郎がやんわりとボルトとサラダの間に割って入る。
修学旅行での点呼の問題を差し引いても、現状にさほどの余裕がないことには変わりがなかった。今この時も、刻一刻と新．忍刀七人衆の計画は進行中なのである。
「そうだ！連中がどこにいるかは分かったのかよ？」
ボルトが問う。
対して長十郎は、硬い表情で答えた。
「ええ、報告がありました。霧隠れの里の記念公園。その中心にある慰霊碑に向かっているそうです。」
「慰霊碑……」
サラダはその言葉に眉根を寄せる。
すでにその慰霊碑のことについては、蜂谷から聞かせれていた。
かつてあった霧隠れの里の悲しい歴史の犠牲者たち。その者たちの魂を慰めるための施設……。たが、その慰霊碑には、水影の意に沿わない者たちの名は刻まれていないという。
かぐらの家族たちの名も、だ。
「水影様。聞きたいことがあります」
サラダの居住まいを正し、まっすぐに長十郎を見る。
これだけはかぐらを連れ戻しに行く前に、どうしても確認しておかねばならないとサラダが感じていたことだった。そう、水影と同じく里を統べる火影を目指す身として、サラダは答えを得て納得しておく必要があったのだ。
「屍澄真は、あなたが自分の意見に反対する者たちを粛清していると言っていたそうです。そして今、話に出た慰霊碑には、あなたに反対する者やその家族の名は刻まれていないと……。本当なのですか？」
先に長十郎を説得した時と、サラダの口調は違う。
あの時、彼から水影としての立場から出た言葉ではなく、その心の奥底にある本音を引き出さねばならなかった。
だが、今は逆だ。サラダが尋ねているのは、水影としての長十郎の答えなのだ。
「それは……、かぐらのことですね」
サラダとボルトは、長十郎の言葉にうなずく。
その様子を見て、彼は何かをかみしめるように少しずつ口を開いた。
「……何を言っても言い訳になるでしょう。私の行いについて自分で釈明したところで、それは何の証明にもならない。ただひとつ。かぐらの家族の名前——つまり、やぐらの眷属の名が慰霊碑に刻まれていないのは、私の責任です」
水影は語る。
霧隠れの里において、やぐらの名はすなわち恐怖であると。
理屈ではない。その恐怖は彼の死後、かなりの時間を経てなおも消えてはいないのだ。
その恐怖はやぐら自身のみならず、彼に関係するものすべてに及んだ。
彼が敷いた制度、彼が作った建物、彼が作った法律。
彼の愛したもの、彼の部下、彼の血族……、あらゆるものが霧隠れでは恐怖の対象となったのだ。
「かぐらが、橘の名ではなく枸橘を名乗るのもそういうことです。やぐらにまつわるすべては、霧隠れでは禁忌とせざるを得なかった。そうすることでしか、私たちにはかぐらを守ることができなかった」
やぐらへの恐怖は、すなわちその遺産すべてへの憎悪でもあった。
ゆえにやぐらに関係するあらゆるものを、水影は霧隠れの里から抹消するしかなかったのだ。そうしなければやぐらを恐怖する者たちは、恐怖のあまりに強制的にそれを排除して回っただろう。
——無論、新．忍刀七人衆のようなやぐらの時代を礼賛する者たちを押しとどめる意図もあったが、それよりもやぐらの犠牲者たちの暴走を緩和する目的がはるかに大きかったのだ。
結果として、現在の霧隠れの里からはかつての血霧の里と呼ばれていた頃景色がほとんど消え去ることとなり、その血族もまた公式の歴史から抹消された。いないものとして扱われることとなったのだ。
サラダは思い出す。
かぐらがイワベエに絡まれた時のことを。
かぐらは「過去の血は洗い流された」と言った。
それに対して、イワベエは「過去の話じゃない、今も生きている人間の話だ。……それを、なぜ過去の話にしようとする？」と問うた。
今なら分かる。
かぐらは、“過去の話”にするしかなかった。“いないもの”として扱うしかなかったのだ。そうなることのみ、彼とその血族は存在を許された。そうである以上、今さら彼がそれを覆すわけにはいかない。
それを覆すということは、今まさにそうなっているように、やぐらの時代を再来される者たちの計画に荷担するということなのだから。
まだ、それを“歴史”として語ることができないぐらい、霧隠れにおいてやぐらの記憶は鮮烈なのだ。
まさに、“今も生きている人間”の話であるがゆえに……。
「私は罪と知りつつもそれをなすことでしか、前に進めないと思っています。そしてその罪はすべて、この私のもの——次の世代に決して引き継ぐわけにはいかない、私だけが背負うべき罪です」
そう、その罪は決してかぐらには負わせない。
“六代目水影”長十郎は、あえて言葉とせずにそう言う。
彼の声には、覚悟と己の力のなさへの悔恨、加えて未来への意志があった。
「ありがとうございます、水影様」
サラダは、長十郎の示した意志に感謝の言葉を口にする。彼は“今、里を治める者”として、その覚悟と決意を“将来、里を治める者”に伝えたのだ。
「こちらこそ……。では、行きましょう！」
その声とともに、少年と少女、それにひとりの青年か駆け出す。
それぞれに大切なものを守り、取り返すために……。

渣翻
「抱歉，來遲了！」
說話的博人終於來到他住宿的酒的後花園。
那裏，佐良娜和長十郎已經在等了。
「全都搞定了嗎？」
被長十郎問道，博人露出了讓人能看見牙齒的笑容。
「啊啊，我已經好好拜託電氣幫我向老師們說幾句。」
「等一下，鹿代和巳月呢？」
佐良娜向笑著的博人抽動了一下。
博人和佐良娜在回酒店途中說好了決定向不參與這件事的人，請他們也幫忙做些甚麼。
說好了博人盡量請求鹿代和巳月、佐良娜則盡量請求蝶蝶和堇，求他們幫忙向志乃和紅豆隱瞞這件事。
然而，和佐良娜不同，博人不斷有找他們，可到頭來能遇到的好像只有在酒店大堂的電氣。
「你這個人真是……」
「那有甚麼辦法﹐他們就是不在啊。」
「到此為止了。如果出了狀況的話，你們也不是不能從我這裏得到特別的處理……而且現在已經是能讓他們繼續逍遙法外的時限了。」
長十郎婉轉地介入博人與佐良娜之間的吵架。
現在怎麼吵修學旅行點名的事，對現狀也沒多大作用。這個時刻，新．忍刀七人眾的計劃仍在進行中。
「對了﹐你知道那幫人現在哪裏了嗎？」博人問。
對此，長十郎以僵硬的表情回答道：「唉，有報告了。他們在霧隱村的紀念公園，在那裏的中心的慰靈碑。」
「慰靈碑……」
佐良娜對那個詞語繃緊眉頭。
已經從蜂谷那裏聽過有關慰靈碑的事了。
那個慰靈碑是為了安慰以往在霧隱村悲慘的歷史的犧牲者們的設施。但是，那個慰靈碑上沒有刻上沒順從水影的意思的人的名字。神樂家人的名字也是如此。
「水影大人，我有想知道的事。」
佐良娜調整了自己的位置，讓自己直面著長十郎。
佐良娜感覺只有這個問題無論如何也要在去把神樂帶回來前得到確認。對，身為一個目標是和水影一樣也是統治著村子的火影的人，佐良娜覺得有必要知道這個問題的回答。
「屍澄真說，你把反對你意見的人們殺了。還有，剛剛說到的慰靈碑，你沒有把反對你的人和他們的家人的名字刻在上面。這些事情都是真的嗎？」
和剛剛去說服長十郎時，佐良娜的語氣是不同的。
那個時候，不是為了引出他身為水影的立場的回答，而是他心底裏真實的想法。
但是，現在剛好相反。佐良娜想知道的，是身為水影的長十郎的回答。
「那是……神欒的事對吧。」
佐良娜和博人點點頭。
長十郎看見他們的樣子，口裏像是咬著甚麼般微微打開了。
「無論我說甚麼也像是找籍口吧。就算我把自己所做的都解釋清楚，也沒有任何證據。但是只有一件事，就是神樂的家人的名字——也就是矢倉家族的名字沒刻上慰靈碑是我的責任。」
水影（長十郎）在講述。
在霧隱村，矢倉的名字就是恐懼的代名詞。
這不是假的。那種恐懼即使在矢倉死後﹐經過一段長時也未能消失。
那種恐懼不光是矢倉自身﹐也涉及與矢倉有關的事。
他所推行的制度，他建的建築物，他定的法律。
他所愛的東西﹐他的部下，他的家族……，一切都成為了恐懼的對象。
「神樂他不姓橘而是枸橘也是如此。與矢倉有關的事物不得不成為霧隱村的禁忌。除了這樣做以外，我們沒辦法保護神樂。」
對矢倉的恐懼，也是對矢倉所留下來的東西的憎惡。
因此，水影（長十郎）除了把與矢倉有關的事全都從霧隱村中強制移除外，別沒他法。如果不這樣做的話，那些恐懼著矢倉的人們，就輪到他們在恐懼的俱使下，強制把那些東西排除掉。
——當然﹐雖然有阻止像新．忍刀七人眾般歌頌矢倉時代的人們的意圖﹐但緩和矢倉的犧牲者們的暴亂遠遠比這個重要。
結果，現在的霧隱村已經將以往被稱為血霧之村的時期的景色完全消去。那個家族也從官方的歷史中再次被抺走。被當成不存在的東西處理。
佐良娜想起來了。
那是神樂和岩部爭吵的時候。
神樂說：「過去的血已經被沖走了。」
對此，岩部問：「這不是過去的事，而是現在還活著的人的事……為什麼你要把那個當成過去的事？」
現在她明白了。
神樂不得不把它當成過去的事。不得不把它當成不存在的事處理。這樣做是為了能讓他和他的家族繼續存在。既然如此，現在就更不能讓他把它推翻。
把它推翻就像現在將要發生的事般，變成讓矢倉的時代再次回來的人們的幫凶。
再者，霧隱村到達了不能將那段歷史講述出來的程度，說明霧隱村對矢倉的記憶仍非常深刻。
確實，這也是岩部說這是「現在還活著的人的事」的原因。
「我明知道這是一種罪我也如此行。我想，除此之外，村子便不能向前進。還有那些全都是我自己一個人的罪——絕不能讓下一代承擔，這是只有我一個人應該背負的。」
是的，絕對不能讓神樂背負這罪。
六代水影長十郎的言下之意。
他的聲音裏，有著覺悟與對自己能力不足的悔恨，還有向著未來的意志。
「謝謝你，水影大人。」
佐良娜向長十郎展示的意志道謝。他以現在統治村子的人的身分，把那些覺悟和決意傳達給未來統治村子的人。
「我也是……那﹐走吧！」
伴隨著那聲音，少年（博人）和少女（佐良娜），還有一名青年（長十郎）跑起來。
為了守護、取回對各自各重要的東西……。

@小路233♬

抱歉，剛才查了一下，第三卷漢化是四個月前出的，與第四卷出版日期搞混了。

小說內頁⋯⋯

這也說明為什麼屍澄真認為長十郎應該受罰，原因長十郎把他尊敬的矢倉從歷史中抺除，讓一個國際繁華大都市掩飾過往的霧隱村。